なぜ、彼女のチームはトラブル続きなのか? 〜イノベーションの落とし穴〜 

「ブランドデザイン」科

「ホント、許せないんです」

 

先日、とある動物愛護団体の方の相談を受けた時の事。

その方は、動物を大切に思っていて、もっと自分の理念を、活動を認めてもらい、世に広めたいと思っていました。

 

しかし、彼女の思いとは逆に、団体は色々なトラブルを抱えてしまい、なかなか前進できていないのだそうです。

 

スタッフが突然離脱してしまったり、イベント等の企画がなかなかうまくいかない。チームがまとまらない。

そんな状況に彼女は悩み、そんな時に共通の知人の紹介で僕に出逢い、相談をしてくれたという訳でした。

 

webサイトやイベントの企画書や、色々な資料を見せてもらい、色々なお話を伺う中で、彼女の現状の根本にあるものがひとつ見えてきました。

(それが冒頭の言葉に現れています)

 

彼女は一所懸命学んでいました。

組織のマネジメント、PRやマーケティングやブランディング…

色々な手法を学び、そして学んだ事を実行していました。

 

でも、前進できない。

現状が変わらないどころか、悪くなってしまう。

 

なぜなのでしょうか?

その根本的な理由について今日はお伝えします。

 

(公開を許可してくださったAさん、ありがとうございます)

 

 

飛躍も停滞も、そこには同じ理由があった

彼女が動物愛護団体を立ち上げた理由、そこには

 

怒り

 

がありました。

 

「罪もない動物が人間の都合で殺される、そんなの許せない!」

それが彼女が団体を立ち上げるきっかけとなった最初の感情だったのだそうです。

 

しかし、まさにその「怒り」こそが、彼女の足を引っ張っていた。

それが彼女に伝えた僕の意見でした。

 

どういう事なのでしょうか?

 

 

「怒り」というものの本質

これは、僕個人の見地ではありますが、そもそも「怒り」とは、非常に大きなエネルギーです。

だからこそ、何か新たな一歩を踏み出すきっかけになる。

何かを変えるきっかけになる。

「怒り」というものにはそういう力があります。

 

Aさんもまさにそうでした。

日々、動物達が人間の都合で殺されていく現状に対して怒りを感じた事が活動のきっかけだった訳です。

 

しかし「怒り」は、エネルギーとしては非常に強い力を持つものの、その本質は

 

「否定」

 

であり、そして

 

「破壊」

 

というものです。

 

目の前のものを否定し、破壊する。

それが「怒りが持つエネルギーの本質」です。

 

でもね。

 

まともに考えてみれば、ここで疑問がでる訳です。

 

「否定して、壊して、その後はどうするの?」

 

と。

 

 

あなたは猿?それとも人間?

 

「●●は間違っている!」

 

「●●はおかしい!」

 

と声を上げる人は、国会から呑み屋まで、様々な所に生息しています。

でも、その人達が何かをより善いものに変えられているのかと言えば、疑問符しかつかないでしょう。

 

否定する事が問題なのではありません。

ただ、その先に

「では、どういう未来が望ましいのか?どのようにそれを作るのか?」

がなければ、それはただの文句、罵倒でしかない訳です。

 

巷ではそういった、何かに対して非難や文句を言うだけの人がいますが、そういった事は猿でもできるのです。

非難や文句を言うのなら、自分なりにどうすべきだと思うのかをきちんと考える。

その内容がどんなものであっても、自分なりに考え、自分なりの答えを持った上で意見をする。

それは非難でも文句でもなく「建設的な批判」というものです。

 

否定して、壊す。

それだけなのであれば、それはもうただのテロリストと同じようなものであり、個人的には猿にも劣る(と言うと猿に失礼なのですが)ものだと考えています。

 

人間は壊すだけではありません。

何かを生み出す事が出来る存在です。

僕はそう信じています。

 

そしてここに、今回のAさんが嵌ってしまった落とし穴がありました。

 

 

Aさんの誤算

Aさんの行動の原点の最も大きなものは「怒り」でした。

行政や国政に対して、ペット業者に対して、無責任な飼い主に対して、怒りを感じていました。

だから彼女は行動した。声を上げた訳です。

 

でも、上でもお伝えしたように「怒り」の本質は「否定・破壊」というもの。

何かを否定したりする事は出来ても、そこから先には進めません。

そういった「ただの現状否定だけ」では、残念ながら世界はAさんが望むものにはならないのです。

 

それどころか、その逆の世界が形になってしまうようになります。

実際にAさんの団体でも、イベントにあまり人が集まらなかったり、スタッフとの温度差が生じてしまってトラブルが起こってしまったりといった事が頻発するようになったのだそうです。

さらには、Aさんについていけないと団体を離れる人が少なからず出てきてしまったのだとか。

 

その結果、Aさんは、さらに怒りに火がつくようになってしまいました。

他の動物愛護団体や自分の団体のスタッフさんたちへ怒りを感じ、攻撃してしまうようになってしまいます。

そしてそれは、更なるトラブルをAさんにもたらすようになるのです。

 

ちなみに冒頭の

「ホント、許せないんです」

という言葉は、某団体への怒りの言葉でした。

 

賢明なあなたなら、もうこの時点でAさんが進んでいる方向がおかしな方へ変わっているのが分かりますよね?

某団体やスタッフさんに怒った所で、動物の殺処分が減る訳がありませんから。

「否定・怒り」のエネルギーはこのように、違う方向に向かってしまう事が多々あるのです。

 

 

怒りだけで終わらないために

何度でも言いますが「怒り」が悪いという訳ではありません。

スティーブ・ジョブズしかり、ココ・シャネルしかり、世界にイノベーションを起こした人の根底には現状への「否定・怒り」に近い感情がありました。

 

でも、彼らはそれだけではなかった。

ただ怒っていただけではなかったのです。

 

「スクラップ・アンド・ビルド」

 

という言葉がありますが、否定したり壊すのはあくまでも「スクラップ」という「第一段階」であり、それだけでは新たなものは生み出されない。

僕はそう考えています。

壊した後の「第二段階」としての「ビルド」つまり「創造」という段階が必要であり、この段階に必要な要素は第一段階の「否定・破壊」とは全く別のものなのです。

 

上で挙げた偉大な先人達にはその「全く別の要素」がありました。

 

だからこそ「スクラップ」だけではなく「ビルド」もできた。

現状を打破し、新たな価値を創造できた。

「イノベーション」を起こせたのです。

 

では、この「要素」とな何なのか?

Aさんには何が足りなかったのか?

 

これについて、次回にお伝えしましょう。

 

 

阿部 龍太

 

 

 

 

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