「築地ブランドを維持・活用・発展させるということで、新しい戦略を展開すべきだと考えております」
先日、築地市場の豊洲への移転について小池百合子東京都知事が会見し、
・豊洲市場への移転の決定
・築地市場の再開発
について発表しました。
実は僕、以前築地のとあるお客様のお仕事をしてまして、約5年程、築地に通ってたんです。
大体週に3〜5回くらい通ってましたが、その時の昼食はいつも築地市場で食べてました。
そうなると少なくとも月に10回くらい、それが1年で120回くらい、それが約5年で600回くらい。
約600回、昼食を築地で食べていた事になります(そう思うと結構すごいな…)
それ以外に、友人やお世話になった人をお連れして築地ツアーをして、マグロの競りを見学したり、食べ歩きをしたり、美味しいものを買って帰って家でパーティーをしたりした事もあります。
築地ツアーには通算で大体50人弱くらいはお連れしたと思います。
場内(市場内にある)のお店や場外(市場の外にある)お店でガイドブックに載っていたお店はほとんど行きましたし、載っていないお店やメニューも教えていただいて、本当に築地には色々とお世話になりました。
そんな控えめに言っても築地大好きな僕ですが、今回の小池都知事の会見について「ブランドデザイン」の観点から思う所があったので、記事にしてみようと思います。
彼女の想いは実現できるのか?
間違って紹介してはいけないので、記者会見の全文(ソースはこちらです)を確認しました。
気になったのは
「築地市場を再開発する」
という点。
実際に小池都知事は
日本一の世界に誇る築地ブランドからの食に魂をこめまして、この「築地を再開発する」という基本方針を判断するに至った
(会見全文より抜粋)
と発言されています。
これについて
「築地市場の価値・高いブランド力というのは、東京都の莫大な資産であると考えられます」
「東京都といたしましては、築地ブランドを維持・活用・発展させるということで、新しい戦略を展開すべきだと考えております」
「築地市場は長年培ったブランド力、そして地域との調和を生かして、改めて活用することが、この大切な宝を生かす方法ではないかと考えます」
「食のテーマパーク機能を有する新たな市場として、東京を牽引する一大拠点とする」
「築地のブランド力と地域の魅力を一体化させた「食のワンダーランド」を作りたい」
(以上、会見全文より抜粋)
といった発言があったように、小池都知事はかなり築地のブランドを評価しているようです。
少し話は逸れますが、巷では小池都知事の発言に対して
「こんなの単なるリップサービス。どうせやらないでしょ」
という声もあります。
もちろんその可能性は否定できないのですが、ここでは彼女が実現しようとしてくれるものと仮定して、話を進めさせていただきます。
小池都知事、頑張って!
という訳で、話を戻します。
さて、ここで思うのですが
どうすれば彼女の想いは実現するのでしょうか?
確かに築地には
歴史があります。
専門性もあります。
美味しいお店もあります。
ただ、これらによって
「食のテーマパーク」
「食のワンダーランド」
が実現できるのでしょうか?
歴史や専門性や飲食店。
確かにこれらは重要な「コンテンツ」でしょう。
これらを活用して
綺麗な建物を造り、
美味しいお店を誘致し、
市場の見学コースや資料館のひとつでも作れば、
まあ観光客は集まるでしょう。
まあお金は落ちるでしょう。
でも、本当に、それだけでいいのでしょうか?
それが本当に
「食のテーマパーク」
「食のワンダーランド」
と言えるものになるのでしょうか?
まあそもそも
「食のテーマパーク」
「食のワンダーランド」
が具体的にどういうものなのかという事を考える必要があるのですが、小池都知事の話を聴く限り、ただ「コンテンツ」を並べるだけでは欠けている要素がある、僕にはそう思えるのです。
僕が思う「築地の価値」
良くあるベタな話ですが、建物やお店といった「コンテンツ」だけでは「築地の価値」すなわち
「築地のブランド」
は表現できません。
そう、先日書いたこの記事でも伝えた
「コンテクスト」
つまり
「関係性」
これが重要になってくる訳です。
この「コンテクスト」が、上で僕が言った
「欠けているもの」
となります。
たかだか5年、たかだか600回程度の食事の機会だけですが、僕は築地で色々な経験をさせてもらいました。
・マグロの競りでの熱気
・仲卸さんの魚に対する熱意
・食材と顧客を大切にする飲食店
特に飲食店においては、顧客との距離が近いという事もあって、美味しいだけではなく、とても素敵な出会いがいくつもありました。
・「中栄」さんのご主人の朗らかな接客
・「瀬川」さんのご主人のマグロへのこだわり
・「豊ちゃん」さんのおばあちゃんの優しい笑顔と楽しい会話
今思い出しても美味しい、有難い思い出です。
(ちなみに「豊ちゃん」は一旦閉店し、今は別の方が運営されているそうです。おばあちゃんはお元気なのでしょうか…)
そして、美味しくない思い出もあります。
立地条件に胡座をかいて、生ゴミ以下(いや、生ゴミに失礼すぎる)のサービスしか提供しないある寿司屋(店名はここでは控えますが場内にあります)がありました。
お寿司そのものは悪くはなかったんです。
つまり「コンテンツ」は悪くはなかった。
でも「顧客との関係性」が致命的だったんです。
お客様をもてなそうという「姿勢」そういった「空気」が全く無かった。
それによって、お店と顧客との関係性、すなわちコンテクストが致命的に悪いものになってしまった。
「こうすればファンは離れていく」
という、ある種の教科書を見たような気がしました(苦笑)
個人的にああいうお店は旧約聖書のソドムとゴモラの如く、この世から消えてもらいたいものですが、それはともかくいい勉強をさせていただきました。
僕がブランディングにおいて必須と考えている
「コンテクスト」
すなわち
「関係性」
とは、
精神性の体現
によって成されるものです。
この「精神性」つまり
「哲学」
とも言えるもの。
それが僕の言う「コンテクスト」を構成する最も重要なものです。
もっと言えば「願い」と言ってもいい。
何を実現させたいのか、大切な人が誰で、その人にどうなってもらいたいのか。
その「願い」によって、体現される思考や行動が変わり、その結果、相手との関係性が変わってくる訳です。
同じ「お寿司屋」という「コンテンツ」
でも、この
「精神性」という「コンテクスト」
が違ってくれば、体現されるものが変わり、その結果として
「顧客との関係性」
が変わってきます。
コンテクストの違いによって、
片や笑顔の体験が、
そして片や生ゴミ(いや、生ゴミに失礼すぎる)以下の体験が
それぞれ得られるという訳です。
「商品やサービス」という「コンテンツ」は確かに大切なものです。
しかしそれだけでは、下手したらどうしようもない生ゴミ(いや、生ゴミに失礼すぎる)がまき散らされてしまう可能性もあるのです。
「コンテンツ」と「コンテクスト」の調和、つまり
表面的なもの(建物、商品、サービス)と内面的なもの(精神性・哲学)との調和
こそが、ブランドデザインにおいて大きな鍵となる、僕はそう考えます。
そしてこの「コンテクスト」を築地市場において考える時に、個人的に絶対に無視して通れない「問い」があります。
それは
「食」とは何なのか?
というものです。
「食」とは何なのか?築地とは何なのか?
「食」という字は「人を良くする」と書きます。
だから僕は「食」に携わる全ての人は、人を良くする人だと定義しています。
そういう「人を良くする人」が色々な分野で数多く集まっている、それが築地が秘めている大いなる価値であると思うのです。
築地には様々な人が、様々な仕事を通じて「食」という「人を良くする」事に取り組んでいる。
であれば、そういう方々を通して、色々な事が実現できると思うのです。
真面目な企画から面白い企画、子供向けの企画から大人向けの企画まで、色々な事が実現できると思うのです。
そうすれば、観光客だけではなく、地域の人にとっても喜ばしい事になるのではないでしょうか。
築地に脈々と流れてきた精神性、哲学を「きちんと」盛り込む事で、まさに小池知事が言われたように
「地域との調和」
(会見全文より抜粋)
が実現できるのではないか。
築地が好きで、そしてブランドデザインに携わる身としては、是非築地の「哲学」を良い方向で継承して新たな築地市場の構築に活かしていただきたい。
ただ飲食店を入れてハイお終い!という醜態だけは避けていただきたい、心からそう思っています。
君に、届け。
小池都知事、いかがでしょう?
ぜひみなさま方からいろんなご意見などもおうかがいをし、「こういうアイデアはどうか」なども募っていきたいと考えております。
(会見全文より抜粋)
とおっしゃられていますし、もしよろしければ是非僕の意見もご考慮いただければ、と思っております。
築地に来る人、築地で働く人、築地に住んでいる人
皆が笑顔になれるように。
そんな市場になる事を、一ファンとして楽しみにしています。
あなたの発言について
「こんなの単なるリップサービス。どうせやらないでしょ」
と言っている人たちを是非見返してください。
目先の利権や主義主張も大切かもしれませんが、10年、20年、50年、100年先を是非見てみてください。
(これは小池都知事だけではなく、築地の関係者の方々への想いです)
応援しています。
阿部 龍太
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