一芸に秀でているからブランドになれない、という現実

「ブランドデザイン」科

「僕なんか足元にも及ばないレベルの高い人が、埋もれていたりするんですよね」

 

ある友人が話してくれた事です。

 

その友人は、とある伝統芸能の演者。修行を終え、これから世界に羽ばたこうとしている若者です。

しかし現実は、彼よりも経験豊かで、熟練した演者の人でも、それだけで食べていけていないという現実があるのだそうです。

 

そんな彼に対して僕が彼に言ったのは

「一芸にしか秀でてないからそうなるんだと思います」

というもの。

 

つまり

一芸に秀でている「だけ」では足りない

という事です。

 

今回はこれをテーマにお伝えしようと思います。

 

 

なぜ「一芸に秀でている」事に問題があるのか?

一芸に秀でている「だけ」では足りない。

これを説明する上で参考になるものがあります。

 

「これからの時代に求められる人材」というテーマで良く言われる

・I型

・T型

・π型

・H型

といった概念。

 

「I型」は縦に一本、つまりひとつの専門性しかない事を表しています。

これが「一芸にしか秀でていない」という状態です。

 

「T型」はひとつの専門性をベースに、横軸としてそれ以外の幅広い知識を持っているという事。

ひとつの専門性を色々な角度で観る事が出来、それによって新たな価値を生み出す事が出来る事を表します。

 

「π型」はT型に加え、更にもうひとつの縦軸(専門性)があるという事。

二つの専門性を幅広い知識で応用が出来、更なる価値を生み出す事が出来る事を表します。

 

「H型」は、I型、つまりひとつの専門性しかなくても、他の専門性のある人と繋がる事で、新たな価値を生み出せる事を表します。

 

どれが良いとか悪いとかそういう話ではなく、要は

 

ひとつの事に熟練しているだけでは、新たな価値を生み出す事は難しい。

いくつかの特性を組み合わせる事で、新たな価値を生み出せる

 

という事です。

 

冒頭の伝統芸能の演者の彼にはこう伝えました。

 

「もしあなたが演者として成長したい、もっと多くの人に届けたい、それこそ世界に出たいと思っているのでしたら、演者としての心技体を磨きつつ、それに加えてもうひとつ、いやふたつの新たな要素を組み合わせてください。

例えば●●●とかxxxとか???とか。

(ここは彼のためにもヒミツでお願いします)

今は歌舞伎で『ワンピース』が公演されたり、宝塚歌劇で『ルパン三世』が公演される時代です。

伝統にこだわると言うと聞こえはいいですが、このままでは消えてしまうかもしれない。

伝統を大切にする事と、伝統に胡座をかく事は違うんです。

もちろん、その一芸に凄まじく特化していれば話は別ですが、そこまで磨くまでにどれだけ時間がかかるのか。

寿命が尽きては元も子もないんです。

だからこそ、演者としての価値を磨きつつ、別の側面からも新たな価値を磨いていってください」

 

と。

これは彼だけではなく、これを読んでくれているあなたにも当てはまるのではないかと思うのです。

 

 

新たな価値を生み出している例

これを表す例は数多く存在します。

 

ドラゴンクエストで言えば

魔法使いと僧侶のふたつの能力を持つ賢者

のような。

 

芸能人で言えば、

モノマネも司会もフリートークも役者もできるタモリさん

のような。

 

お笑いで言えば

ボケとツッコミのコンビ(H型のパターン)

のような。

 

別の例を出すのであれば、この事は藤原和博さんの著書

『藤原和博の必ず食える1%の人になる方法』

で、

「100万人に1人の人になる」

という内容で表現されている事でもあります。

 

一言で言うならば

ひとつの事で「100万人に1人」になる事は非常に困難だが、「100人に1人」の能力を3つ掛け合わせる事で「100万人に1人」の存在になれる。

という事です。

 

これはホリエモンさんの著書

『多動力』

で言われている

ひとつの分野で100点を目指すのではなく、80点のものを複数分野で持つから強みが生まれる。

という事とも近いと思うのです。

 

 

これらの例のように、

いくつかの特性を組み合わせる事で、新たな価値を生み出せる可能性が高まる

という事が言える訳です。

 

 

世の中そんな甘い訳が無い

ただ、ここで注意してほしい事があります。

それは、

 

ただ単に多くの事を知っていれば、多くの経験があればいいという訳ではない。

 

という事。

 

もし、多くの事を知っているだけでいいのなら、雑学王はもうウハウハのはずですよね?

多くの資格を保持している人はもうヒーローになれるはずですよね?

 

でも現実世界では、そうはなりません。

なぜなのでしょうか?

 

身も蓋もない事を言ってしまうと、ただ持っているだけでは意味が無いから。

ただ持っているだけではなく、自分の持っているもの、専門性や知識や特性、それらを組み合わせて活かす事が必要だという事です。

 

この「組み合わせる」という力、言わば

 

「智慧のコーディネイト力」

 

というものが、持っているものを活かす上で非常に重要なものになる。

それが僕の意見です。

 

 

カリスマ経営者から学ぶ「智慧のコーディネイト力」

アップルの創業者のひとり、スティーブ・ジョブズ氏

プレゼンの素晴らしさで有名な彼ですが、そんな彼のスピーチでも特に有名なものが

スタンフォード大学の卒業式のスピーチ(2005年)

 

その中で彼は

「点と点を繋げる」

(connecting the dots)

という事について述べています。

 

大学でカリグラフィーについて学んだ事が、後にマッキントッシュを開発する際に役に立った、という話をしているのですが、ただ彼のように

 

・カリグラフィーを学んでいた

・後にコンピュータに興味を持つようになった

 

という人は他にもいたはずです。

なのになぜ、彼だけがマッキントッシュのような傑作を生み出せたのか?

 

彼と酒を酌み交わした訳ではないので、あくまでも色々な資料からの僕の推測にすぎないのですが、彼には大きな

「智慧のコーディネイト力」

があったと思うのです。

 

 

「カリスマのコーディネイト力」の根本にあるもの

彼のような知識や経験があった人は他にもいたはず。

なのになぜ、彼があのような偉業を成し遂げられたのか。

 

彼のスピーチで

 

将来をあらかじめ見据えて、点と点をつなぎあわせることなどできません。

できるのは、後から繋ぎ合わせることだけです。

スピーチより抜粋)

 

という部分がありますが、彼のように

 

繋ぎ合わせること

 

が出来た人とそうでない人の間にどんな違いがあったのか。

 

そこには彼の人生における「テーマ」つまり

 

「人生におけるコンセプト」

 

があったと思うのです。

 

 

全てのベースとなる「人生におけるコンセプト」

彼のスピーチにこうあります。

 

私は毎朝、鏡に映る自分に問いかけるようにしています。

「もし今日が最後の日だとしたら、私は今からやろうとしていたことをするだろうか」

と。

「違う」という答えが何日も続くようなら、何かを変える必要があると分かるのです。

スピーチより抜粋)

 

彼は

「自分の人生において自分がやるべきだと納得出来る事しかしない」

と決めていた。

だからそれを追い求めてた訳です。

 

ジョブズの事を「狂人」と称する人がいます。

彼の胸にあったのは「情熱」ではなく「狂気」だと。

 

それはある意味、的を得ているのかもしれません。

 

それだけ彼は「自分の人生を生きる」事に集中していた。

彼自身の人生のテーマ、則ち

「人生のコンセプト」

に忠実に生きていた。

 

だからこそ彼の「点と点」が「線」になった。

そう僕は考えます。

 

実際に彼には、コンピューターを作る能力、つまりエンジニアとしてのスキルはありませんでした。

普通は「こんなコンピュータがあったらいいけど、自分にはコンピュータを作る能力はないから無理だなあ」で終わります。

でも彼はそこで終わらなかった。

 

15歳の時に出逢っていた天才エンジニア、もう一人のスティーブこと、スティーブ・ウォズニアック氏との縁を活かして新たなコンピュータの誕生を実現させ、世界を変えるきっかけを作った。

こういった偉業を実現出来たのも、彼の人生のテーマ、彼の人生のコンセプトに沿ったからだったのではないか、そう僕は思うのです。

 

 

ブランドは商売だけに必要なものではない。

「ブランドは商売において必要なものだが、それだけではない。人生においても必要なものだ」

僕とブランドについて話をした事がある人は、ほぼ必ずこの事を耳にしていると思います(笑)

 

適切なブランドを創る事で、商売は楽になります。

ファンが増え、スタッフは成長します。

楽に儲かるようになります。

 

でも、それを実現するためには

「自分の人生」のブランド構築

をする必要があるというのが僕の意見です。

 

つまり

「自分はどう生きていくか、どう在るか」

という

「自分の在り方」

 

そしてそれに沿った

「自分のやり方」

 

この双方を決め、それを(必要があればその都度修正しつつ)実践していく事。

 

自分のブランドコンセプトを決め、それに沿って自分自身の人生をデザインしていく。

それが僕の言う

「人生のブランディング」

というものです。

 

ビジネスだけ成長させても、人生を持ち崩してしまう人は、この

「人生のブランディング」

を軽視、もしくは無視してしまっています。

 

実際に僕が独立したばかりの頃のクライアントさんで、そういう風に人生を持ち崩してしまった方がおられました。

(仮にSさんとします)

Sさんを手伝うようになってから売上は10倍近くに上がりましたし、出版も、某大学での講演も実現しました。

 

しかしその過程で、彼は権威とお金にのめり込むようになってしまった。

それを指摘した僕は突然の契約終了を宣告され、その後の事業はまあ俗に言われる典型的な惨劇となりました。

 

逆に、商売も人生も豊かになり、笑顔で生きている方もいらっしゃいます。

(仮にYさんとします)

Yさんには「自分はこういう風に生きていきたい」というイメージがあり、僕もそれに沿ったブランディングを提案しました。

その結果、彼女の講座は常に満員に。雑誌やテレビにも取り上げられ、今や海外からもオファーが来るようになりました。

 

何年か経って、Yさんと一度話す機会があったのですが、その時

「卒業してから、上手くいった事も失敗した事もあったけど、今思うとその違いって阿部さんと決めた方向性と合っていたか、ズレていたかで分かれてたと思うんです」

と彼女は言っていました。

そんなYさんは今でも公私ともに充実した人生を送っています。

 

 

二人を分けた決定的な「差」

SさんとYさんに何の違いがあったのか。

二人とも真面目で、行動力があった。

でも結果は全然違うものになった。

その根本にどんな違いがあったのか。

 

それは、

「商売のブランディング」

に興味があったのか

「人生のブランディング」

に興味があったのか、その違いだと思うのです。

 

破綻してしまったSさんは、

「商売のブランディング」

にのみ興味があり、

「人生のブランディング」

に興味が無かった。

その結果、商売という観点では一時的に成長を遂げられましたが、人生全体という観点では苦しくなってしまったのです。

 

逆に今でも充実しているYさんは、

「人生のブランディング」

に興味があり、その過程で

「商売のブランディング」

を作っていった。

 

自分で決めた自分の生きる道に自分の商売の道を合わせようとしていた。

だから、商売においても人生においても、自分が望む成果を得る事が出来ているのです。

 

 

ブランドが与えてくれる「本当の力」

ブランドとは、ただ単に売上を上げるためのものではありません。

ブランドとは、あなたがあなたの大切な人と一緒に喜ぶためのものです。

そしてその結果としてファンが増え、売上が上がっていく。

それがブランドが与えてくれる「本当の力」です。

 

コンサルティングをしていると、

 

「何をすれば儲かるのか?」

「どうやればうまくいくのか?」

 

という質問をよく受けます。

とても重要な考え方です。不要とは言いません。

 

ただ、そこに加えて

 

「何のためにやるのか?」

 

という事も考えてもらいたい。

 

「自分はどうしたいのか?どう在りたいのか?」

 

という

「自分の人生のブランドコンセプト」

を考えてもらいたい。

それに沿って生きていってもらいたい。

それに沿った「人生のブランディング」をしていってもらいたい。

僕はそう思っていますし、そう伝えています。

 

なぜなら、それはあなたに尽きる事の無い好奇心とモチベーション、そして素晴らしい仲間を与えてくれるから。

ジョブズやYさんがそうだったように。

 

あなたがジョブズやYさんのようになる事は不可能ではない。

僕はそう信じています。

 

 

阿部 龍太

 

 

 

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