イノベーションの第一歩に必要なもの 〜はれのひ事件とアパルトヘイト〜

「ブランドデザイン」科

「恐怖はダークサイドに通じる。

恐怖は怒りへ、怒りは憎しみへ、憎しみは苦痛へと導かれるのじゃ」

 

と言ったのはかのマスター・ヨーダですが、彼の言うように、「恐怖」や「怒り」は、現状を打破する力、非常に強い力ではあります。

ただ、それだけでは何も生み出せないどころか、望まない未来がやってくる事が少なくありません。

そして、人生が苦しくなってしまう。

まさに、人生のダークサイドに陥ってしまう訳です。

 

…という事を、頑張っているのに上手くいっていない、とある動物愛護団体のAさんを例に前回の記事で説明しました。

 

【参考記事】

なぜ、彼女のチームはトラブル続きなのか? 〜イノベーションの落とし穴〜 
「ホント、許せないんです」 先日、とある動物愛護団体の方の相談を受けた時の事。 その方は、動物を大切に思っていて、もっと自分の理念を、活動を認めてもらい、世に広めたいと思っていました。 しかし、彼女の思いと...

 

怒りが彼女の行動のきっかけだったものの、その怒りが彼女を傷つけ、苦しめてしまっていた訳です。

とは言え、その「怒り」が悪いと言いたい訳ではありません。

「怒り」は第一のステップであり、その次のステップが必要なのであり、そこがAさんに欠けていた部分なのです。

 

では、その「欠けていたもう一つのステップ」とは何なのか?

それを今回お伝えしようと思います。

 

 

彼女が怒りを着替えたら…

彼女に欠けていた要素。

「否定・破壊」の「次のステップ」となるもの。

 

それは

 

「愛情への変換」

 

というものです。

 

つまり

 

「誰かに対する怒り」

 

 

「別の誰かに対する愛情」

 

に変換する

 

という事です。

 

前回、世界にイノベーションを起こしたとして

 

スティーブ・ジョブズ

ココ・シャネル

 

という二人を例に出しましたが、彼らはまさにこの

 

「怒りを愛情に変換する」

 

という事を実践しています。

 

ジョブズは、旧来のパソコンやスマートフォンの使い勝手の悪さに怒りを感じていました。

そして、それらの製品を使う人にもっと素晴らしい体験をしてもらいたい、仕事や日常生活でもっと喜びを感じてもらいたい、そういう思いで新たな製品、新たな価値を生み出しました。

 

つまり

 

旧来の製品への怒り

 ↓

その製品を使っている人への愛情

 

という風に変換した訳です。

 

また、ココ・シャネルは、従来の女性の服装に、そして自由に服装を選べないその時代の文化に怒りを感じていました。

だから彼女は、まずそういう状況で苦しんでいる自分自身のために動きやすく、それでいてスタイリッシュな服を作りました。

 

つまり

 

旧来の服装やその文化への怒り

 ↓

その文化で苦しんでいる女性(自分)への愛情

 

という風に変換した訳です。

従来のもの(テーゼ)を否定(アンチテーゼ)し、そしてそれによって新たなもの(ジンテーゼ)を生み出すという弁証法と似ていると言ってもいいでしょう。

 

Aさんで言うならば

 

「動物が人間の都合で殺される事への怒り」

 

これを

 

「別の誰かに対する愛情」

 

に変換し、それをベースに行動すべきだった訳です。

 

でも彼女はそれをせず、それどころか

 

「別の誰かへの怒り」

 

を持つようになってしまった。

 

それでは新たなものは生まれません。

傷つき、苦しむ人しか生まれないのです。

 

 

怒りを愛情に変換するための「イノベーションの4ステップ」

この

 

「誰かに対する怒り」

 ↓

「別の誰かに対する愛情」

 

という変換をするために必要な

「イノベーションの4つのステップ」

というものがあります。

 

それは

 

1.今の状態の何にどのような怒りを感じているかを明確にする。

2.ならば、それがどんな風になったら理想なのかを明確にする。

3.2に少しでも近づくためには、具体的に何をどうすればいいのかを明確にする。

4.3の中から今出来る事を行動し、修正し、行動し続ける。

 

というものです。

 

非常にざっくりとしたものではありますが、これこそがイノベーションを起こすために必要なステップだと個人的には考えています。

上で例に出したジョブズもシャネルも、細かい事の違いはありますが、このステップで世界を変えました。

 

そんなイノベーションを生み出せたのは、彼らだけではありません。

非常に学びのあるいい事例をふたつ、ご紹介します。

 

 

「人類への犯罪」を償った偉大な男の生きた道

20世紀に世界中で悪名を轟かせた「人類に対する犯罪」こと

南アフリカの

 

「アパルトヘイト(人種隔離)政策」

 

1990年代まで南アフリカでは、白人による黒人差別が国家政策として行われていのですが、それを打ち破り、平等な権利を黒人に勝ち取った立役者のひとりが

 

ネルソン・マンデラ氏

 

です。

 

彼は若い頃、武装闘争に身を投じていましたが逮捕され、27年にも及ぶ投獄生活を過ごしました。

その経験から彼が得たものとは、

 

否定と闘争ではなく、理解と赦し

 

というものでした。

 

刑務所で彼は、看守と戦うのではなく、彼らを理解し、彼らを味方に変えたのです。

そして釈放後の記者会見で、彼はこんな事を言いました。

 

「白人も同じ南アフリカ人だ。彼らが身の危険を感じるような事態を私は望んでいない。

この国に対する彼らの貢献に、私たちは感謝していることを知ってほしい」

(ネルソン・マンデラ)

 

自分たちを傷つけ、苦しめた白人に復讐するのではなく、彼らを理解し、赦そうとしたのです。

 

人種差別に対する怒りや否定は確かにありました。

でも、それだけではなかった。

そこには国民に対する愛情があったのです。

 

しかも、苦しめられていた黒人に対してだけではなく、苦しめていた側の白人に対しても。

怒りを愛情に変換し、そのための4ステップを彼は歩んでいたのです。

 

そしてその結果、国を変えるという非常に大きく、困難なイノベーションを、彼とその仲間達は成し遂げました。

 

 

「大人」としての生き様を見せた「大人の中の大人」たち

2018年の成人式に、新成人の晴れ着が届かず、晴れ着レンタル会社「はれのひ」の社長が逃亡した事件。

多くの人が逃亡した社長へ怒りを感じたり、被害にあった人達に同情していた中、ある二人の男女がイノベーションを起こしました。

 

キングコング西野亮廣さん

 

と、そのお仲間の

 

田村有樹子さん

 

彼らは「はれのひ事件」に怒りを感じつつ、すぐにその感情を「被害者への愛情」に変換しました。

そして、自分たちに出来る事を考えた結果、

 

彼らにしか出来ない成人式を企画して、被害に遭った新成人(とその家族)を無料招待する

 

という暴挙に近い企画を立ち上げたのだそうです。

 

当然僕は、彼らと何の繋がりもありませんし、今回のこの企画も終わってから知ったくらいのレベルなので、完全に後追いなのですが、彼らの言動を追ってみると、どう考えてもこの

「イノベーションの4ステップ」

に沿っているようにしか見えないのです。

 

それを証明するかのように、このイベントを終えた後の田村さんのfacebook投稿に、こんな記載がありました。

 

悲劇や不満やピンチを嘆くのではなく、ソレを好転させて、いつの日か笑いに変えれて、生きていけたら最高だなぁと思います。

田村さんfacebook投稿より抜粋)

 

そして、このような彼らの「愛情」に呼応して、芸能人や一般人関わらず何百人もの人のサポートがあり、式は大成功に終わったのだそうです。

 

余談ですが、面白いのが、西野さんはこのイベントを「新サービスのプロモーション」という名目で開催したのだそうです。

「売名だ」という非難に堂々と「その通り!」と言う彼の姿勢には最早神々しささえ感じさせられました(笑)

もちろん彼の新サービスは広く知れ渡ったでしょうが、彼の言動を見る限り、恐らく彼の中ではプロモーションという目的は1番ではなかったのではないかと勝手に推測しています。

 

もちろん、彼らのような事は誰にでも出来るものではないかもしれない。

でも、あなたがイノベーションを起こす上で、大きな学びと、大きな大きな勇気をくれるものだと思うのです。

 

 

イノベーションとは何なのか?

ここまで読んでくれたあなたはお気づきかと思いますが、僕はジョブズやシャネルだけではなく、マンデラ氏や西野さんや田村さんが成し遂げた事を

 

イノベーション

 

と定義し、彼らを

 

「イノベーター(革新者)」

 

と定義しています。

 

通常、イノベーションと言えば、技術的な革新を指す人が多いと思いますし、それは何も間違っていません。

ただ、僕は個人的に、技術革新としてのイノベーションは一次的なものだと考えています。

その先の、二次的なイノベーション、つまり

 

何かによって多くの人が喜び、世界がより善くなるという事

 

これこそがイノベーションの本質であるというのが僕の意見です。

 

いくら技術が革新されても、それを使うのはあくまでも「人」

人間が変わらなければ、どんな素晴らしいものでも宝の持ち腐れで終わってしまいます。

 

最近も結構なイノベーション技術が結構な勢いで悪用されましたよね?

いくら技術や製品やシステムでイノベーションが起こったとしても、それを扱う人が今までと変わらないのであればイノベーションは世界を破滅に向かわせてしまいかねません。

核兵器なんて、まさにその一例でしょう。

 

マンデラ氏や西野さんや田村さんは、この「人」というものを革新させた。

人にイノベーションを起こしたのです。

 

マンデラ氏は黒人だけではなく白人も救い、その結果白人からも「タタ(お父さん)」と呼ばれるほど愛されました。

世界中から経済制裁をされていた南アフリカという国家を、ラグビーやサッカーのW杯(ラグビーは優勝しましたし)が開催され、多くの人が訪れるように変えました。

人の心を革新し、その結果、国家が革新された訳です。

 

(本当に蛇足ですが、南アフリカの国歌を是非聞いてみてください。曲の作りの理由や歌詞の意味を調べてみてください。マンデラ氏の願いが見えてきますから)

 

また、西野さんや田村さんは、被害に遭って悲しんでいた被害者(やその家族)を救い「本来の大人」としての姿を見せました。

彼らによって悔し涙が嬉し涙に変わった人達、またそういう人達を見ていた人達が、今後何か別の時に、何かで悔し涙に暮れている人を見かけたらどんな対応をとるでしょうか。

 

式に参加した人、そのニュースを観た人の中でひとりでも、今回の西野さんや田村さんのような事が、悔し涙を嬉し涙に変えられるような事をどんな小さな事でも実践できたのであれば、それはもう立派なイノベーションです。

そういう「人間のイノベーションの連鎖」が繋がっていく事で、南アフリカのように国が変革される事だって不可能ではありません。

 

「イノベーション」を英語で書くと「innovation」ですが、一文字目が「i」すなわち「愛」なのは、ダジャレでも何でも無いのです。

スマホだろうがパソコンだろうが、自動車だろうが何だろうが、どんな革新的なものを作ったとしても、その土台、第一歩に「愛」が無ければそれはイノベーションでも何でもありません。

例えば核兵器は技術的には凄まじい(核融合なんてエネルギー分野では夢の技術ですよね)ものですが、どこに愛があるのでしょうか?

逆を言えば、それほど目新しくないものだったとしても、その土台に「愛」があるのであれば、それはもう立派なイノベーションです。

 

人が笑顔になり、世界がより善くなる。

 

どんな職業であっても、どんな人であっても、それは可能だと僕は考えています。

 

さあ、彼らに続くのは、あなたです。

応援していますよ。

 

 

阿部 龍太

 

 

 

 

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